散歩道で(23年2月22日)

 厳冬の2月はなにかと憂鬱な日々だった。今年の賀状にもう社会的な発言の「期待や野心」から自由でありたいと記したものの、なまじっか健康であるだけに、なお世界と日本の状況に無関心でありえない。
 欺瞞のプロパガンダを弄しながらウクライナの人びとを殺戮し続ける傲慢で無慈悲なプーチンのロシアがいやだ。閣議決定だけで「敵基地攻撃」のできる国に突き進む岸田内閣がいやだ。労働組合の闘いなしに「人への投資」、つまり「経済」のために賃上げを語る芳野友子の連合がいやだ。個人的にも重い鬱屈がある。私は昨年後半、そうした日本の労働状況ゆえにこそ、残存エネルギーのすべてを注いでイギリス炭坑大ストライキ(1984-85年)の物語――新自由主義に抗う労働運動のレジェンド――を執筆した。その刊行が私の最後の「期待と野心」にほかならないが、その出版の見通しが立たない。日本の「空気」を読めばなぜこの内容の作品の刊行が難しいかは自分でもよくわかる。それでも、空しいかもしれないが、これから少なくとも半年は出版依頼にあがくことにしたい。
 憂鬱を抱えながら近隣を散歩する。写真はその折の、私たちの隠れ里・梅園などのスナップである。風はなお冷たいが、春の訪れは近い。私にできることはもうほとんどないけれど、元気を出そう。
 勇気こそ地の塩なれや梅真白 草田男