旅のアルバム

2014年10月 西フランス・ロマネスクの旅

アングレーム

 9~12世紀のロマネスク教会を中心とする宗教美術をたずねる旅に出た。実質8日間のうち主に都市部を離れた教会を20あまり(うち一部はゴシック様式)を訪れるという、いささかマニアックなツアー。多様なかたちに素朴な教会堂、グロテスクな人間、悪魔、動物、悪魔などが躍動する柱頭レリーフ彫刻、稚拙ながら美しいフレスコ画などがロマネスクのポイントである。壮麗なゴシック様式とは別のつきせぬ魅力がある。フラッシュや三脚をつかわない撮影で、高所の12世紀のフレスコなどどうしてもピントがあまくなるが、現物も儚い趣ではある。


2015年4月 イラン旅行

 2015年4月、妻とともに、テヘランからペルシャ湾岸アフワーズに至る、現地9日間のイラン旅行に出かけた。むろんグループツアーで参加者は中年の女性を中心に25名。なぜ今イランに?と友人にいぶかしく問われもしたが、前回2001年の訪問で、この国のイスラム文化と古代遺跡の壮麗さと人びとの暖かさが忘れられず、再訪したい思いにとらわれたからだ。

延々と砂漠を行く、ときに13時間にも及ぶバス、湿気がなく爽やかながら厳しい暑気、それに口に合わない食事・・・高齢の私たちにはたしかに安楽な旅程ではないけれど、期待は裏切られなかった。前回にもまして、この古い古い国の雄大な古代遺跡のすばらしさ、15世紀~17世紀のイスラム文化の精緻きわまる美しさにうたれた。それにどの地の人びとも、イスラムの戒律が厳しいはずの若い女性でさえ、信じられないほど友好的で心が和んだ。警戒的な態度の嫌いな私の性格もあるのかもしれないが、一部の日本人が危惧する緊張などまったく感じなかった。少なくとも庶民たちは明るい。願わくば、この雰囲気が、今は旅行不可能なシリアのように変わってしまわないことを!

以下の写真(NIKON・D80によるもの)は、見て!見て!という感じながら、イスラム文化の精髄、古代遺跡の壮大さ、それに人びととのふれあいなど、イラン再訪の楽しさ、すばらしさの一端を伝える。


2016年2月 スリランカへの旅

2月14日から計6日間、仏教遺跡の豊富さに惹かれ、スリランカを訪問した。古都アヌナーダブラ(BC3世紀より)、ポロンナルワ(10世紀より、最盛期は12世紀)、ダンブッラの石窟寺院(最古の石窟は5世紀)、キャンディの仏歯寺(16世紀)などがやはりおもしろく、すばらしい。ただ、旅行全体としては、今回は観光に専念するいつもの東京の旅行社の企画ではなく、かの阪急トラフィックと競う旅行社の企画する、名古屋発の短く安価な旅行を選んだことに、いくらか後悔した。なによりも商品説明の長いショッピングが頻繁にすぎる。バスが窮屈だ。各所で自由時間や街歩きがなく、寺院の細部や人びとの写真もままならない。それでも、写真のいくつかを楽しんでいただければうれしい。


中国四川省の旅 2016年9月

2016年9月、中国四川省のツアー(九日間)に参加した。興味深かったのは、愛らしいパンダの世界最大規模の養育基地、楽山大仏などの仏教遺跡、明代の古刹、「国家的秘密」とされる神業のような芸・変面(正しくは変臉)、チベット人の村や寺院、古代からの水利施設など多様だったが、なんといっても最大のポイントは、文字通り世界に名高い自然美、九寨溝と黄龍だった。
そこを訪れる中国人の大軍団は、少数の日本人を押し出してしまうほどの勢いだった。この国の庶民が遠い観光地を訪れることができるほどのゆとりに恵まれたことをそれは実感させるものだった。そのほか、中国人の女性ガイドがオプショナルやショッピングの注文申込みを(申込者の名前の公表もふくめて)自分のボーナスに関わる実績として公表するのにも辟易した。そのあまりにはばかりない能力主義に驚いてしまう。
にもかかわらず、晴天に恵まれた九寨溝・黄龍の、信じられないほどの美しさはなにものにもかえがたかった。下界から隔絶した秘境--九寨溝は標高2192~2995m、黄龍の頂点、パラダイス的な黄龍・五彩池は3523m--であるだけに、そこに到る体力・脚力は相当のものだったけれど、みごとに往復できて、私たち78歳も捨てたもんじゃないと満足した次第である。以下、ニコンD80による中国四川の映像を30枚ほどみてください。


イタリア北・中部の古都 ルネッサンスを尋ねて 2016年10月

イタリアの北・中部は、主としてルネッサンス、時にビザンティンやゴシックの文化遺産あふれる古都が真珠の首飾りのように連なる。このたびユーラシア旅行社の企画する、フェレンツェを終点にして14もの古都を経巡るツアーに参加した。いささかマニアックながら、建築、その内陣、フレスコやタンパンの彫刻、モザイク、そして無数の名画など、すばらしいというほかはなく、酔いしれた。日本では考えられないほど、ほとんど「ノーフラッシュなら撮影自由」というのもうれしいかぎり。ここに50枚ほどを示す。素人写真なのに好みに偏して、例えばフラ・アンジェリコなどが多すぎよう。それでも、あまりに美しくて削ることができず、つい、見て、見て、とお願いする気持ちになってしまう。「神はなくとも信仰は美しい」(ボードレール)という。マルクス学徒で無宗教なのに、人びとの宗教への帰依が生み出す美術への、私の傾倒ぶりに苦笑されたい。


コーカサス三国の旅 2017年5月

2017年5月中旬、中東とヨーロッパの間に位置するいわゆるコーカサス三国を訪れた。1998年~2001年にかけて旧ソヴィエトから独立した共和国の国々。東西交易の要にあって 古くから人びとが住み、いくつかの王国も栄えたが、総じてロシアやトルコなど周辺の大国からの圧迫に苦しみ、また三国間の流血の争いも絶えなかった。アセルバイジャンはイスラム教、ジョージャー(グルジア)はロシア正教、アルメニアは古くからの独自の使徒教会系キリスト教を中心とする。古都は数多いが、全体として文化遺跡の密度はそう高くない。とはいえ、寒風吹きすさぶコーカサスの山麓や緑の原野に点在する、ビザンチン風の石造りの素朴な古い教会群は、風景とよくマッチして静謐で美しい。その多くは世界遺産に指定されている。華やかではないけれど、エキゾティックな不思議に魅力をもつ地方だった。


スイス一周 2017年7月

 スイスは、1979年にユングフラウを、1987年にマッターホルンを訪れている。このたびはこの国の見納めとして、サンモリッツ周辺、シャモニー周辺のフランス・アルプスをふくんでオールラウンドにすべての要所をめぐるツアーに参加することにした。登山電車やロープウェイで接近する展望台からの名うての名山や氷河は、荘厳で比類なく美しかった。多くの高山の名前を特定できず残念だ。今回の写真は、いつもの宗教施設や美術館や小路や人びとを対象にした私好みの映像とは違って、夢中でシャッターを切った割には平凡なので、紹介したい写真は23枚ほどに留まっている。カメラはニコンD80、最後の2枚だけ小型のキャノンイクシーズである。


ロシア周遊10日間 2017年9月

2017年9月、サンクトペテルブルグやモスクワはもとより、キジ島やスズダリなど宗教文化遺産の濃厚な「黄金の環」も経めぐる、10日間のロシア旅行に参加した。旅費が割安だった、美術館訪問に時間をかける、はじめてのキジ島も訪れる--などが参加の主な理由だ。しかしむろんそれなりの不満もある。教会の入場観光が手薄なこと、予想してはいたが、ロシア革命100年というのにそのあたりはほとんど訪問も説明も省略されたこと、自由時間が乏しかったことなどである。今はレーニンよりもピョートル大帝・ロマノフ王朝の遺産のほうが人気が高いというわけだ。それに、やはりひどく寒く、バスの移動時間は長く、ああロシアの風土はこんなに広大できびしい風土なんだと思われもした。
とはいえ、なんといってもロシアの文化遺産はきわめて豊富で、エルミタージュやプーシキン美術館では撮影も自由で、本当に楽しい旅だった。私の写真では苦労もあった旅行プロセスを写すものはここにはなく、いつものようにロシア正教のユニークな美を伝える教会--わずかの自由時間にひとりで駆け巡ったところもある--や、数多くの心に沁む西欧絵画に偏しているが、私なりに選んだ約60枚ほどほどをこの場に紹介したい。絵画など画集にあるではないかと思われるかもしれないが、ファインダーをのぞき、光の反射をなんとか避けながら自分で作品のすばらしさを切り取る楽しみは、人びとの表情を撮るいつもの楽しみに匹敵する。


オランダ・ベルギー 花と美術の旅 2018年4月

2018年4月18日から10日間、ユーラシア旅行社のツアーでオランダ、ベルギーを訪問した。主要な古都を経めぐる、花々とルネッサンス以来の大好きなフランドル美術を満喫したすてきな旅だった。季節にも天候にも恵まれた。こんなに美しいものばかりをみる日々はまれだ。各都市でかなりの自由時間もあった。まことに割愛に苦しんだけれど、ここにさしあたり選んだ50枚の写真をアップする。最初の45枚は私の使うニコンD80のもので旅程にしたがう。あとの6枚は主として妻の使うキャノンIXZによる補充である。


中国への短い旅--北京、西安 2018年6月

私たちふたりが80歳を迎える2018年、生き急ぎ・旅急ぎという感じで、また6月の5日間、北京、西安訪問のツアーに参加した。人も知るように中国、アジアへの安価なツアーの通過儀礼は、過剰なショッピング「ご案内」(従って街歩きや文化遺産観光の希薄さ)であって、今回も4箇所以上行かないとわざわざ確認しての参加だったけれど、翡翠、ラテックス、段通、玉石細工の店に各40分ほど引き留められて辟易した。すべて高価なものばかり。たとえば新設の「博物館?」の説明者は、すなわち翡翠や玉石細工ののセールスマンに変わる。
それでも、北京の故宮、頤和園、万里の長城、天壇、西安郊外の兵馬俑坑などは、さすがに全盛期の秦代から明・清代にかけて蓄積された文化遺産の厚みが圧倒的で「グレート!」というほかなく、めくるめく思いにさせる。それらに押し寄せる膨大な中国人観光客または近隣住民の屈託のなさがほほえましい。街中の庶民街にはまだ道路には多くの「乗用車以外のクルマも行き交う。それに警備する警察官や(要所では)人民軍の配置の密度にも驚かされる。壮大な世界遺産の数々、人びとの喧噪と熱気、はばかりない市場主義のセールス・インパクト。未来はこの約14億人の国のもの、という思いがこみ上げてくる。
中国の写真の多くにはどうしても人が入る。しかしそこがおもしろい。最先端の中国の姿はないが、ここに好みの28枚ほどを紹介する。


アイルランド 2018年7月

2018年7月、「ヨーロッパの大いなる田舎」と称されるアイルランドを旅した。前々回のオランド・ベルギー訪問が、連日フランドル美術と花々といくつかの古都の美しさに酔いしれた旅だったとすれば、今回はさびさびとした旅情の日々だった。そこには最果ての驚くべき自然美がある。しかしおよそ8世紀までそこに芽生えた初期キリスト教文化は、中世に華やかに展開することなく、ほとんど遺跡や廃墟としてしか残らなかった。傍らの大国イギリスが、国教会に改宗後、ここを植民地として収奪するとともに、カトリックを弾圧し続けたからだ。イギリス帝国主義の政治・経済的搾取と宗教的支配は、この国の飢餓と移民大国化、産業革命後のイギリスへの低賃金労働力の供給、くりかえし不首尾に終わった対英独立戦争、分離独立後の北アイルランド紛争を生み出した。旅はそれらを垣間見させて淋しい。とはいえ、アイルランドは、随所の想像を超える自然の奇観や宗教遺跡の滅びの美しさという独特の魅力に満ちたところだ。40枚ほどの写真はその魅力に一端を伝えているだろうか。


トルコ12日間の旅 2019年6~7月

長い歴史をもつトルコはきわめて豊富な観光資源を誇る国であり、これまで2度訪れたけれど、2019年6月~7月に、12日間のツアーにあえて参加したのは、破格なまでに安い旅費で、まだ見たことのなかった前世紀からローマ時代にかけての古代遺跡をふくむ、名うてのポイントをほぼ網羅して訪問するプランだったからだ。もっとも、ともに80歳になる私たち夫婦にとって、それは残存体力の限界を試す挑戦でもあった。事実、乗り継ぐ飛行時間も、長いバス移動も、とくに35度を超える猛暑の中での累々たる古代遺跡歩きも、半端じゃない「行軍」のごときもので、したかかに疲れもした。しかし、ある意味で旅行慣れした私たちは、幸いにもより若いツアー仲間以上に元気だった。安価なツアー特有の粗食やショッピング時間に悩まされたとはいえ、総じてすばらしい旅だった。  古代遺跡の壮大さと細部の精緻、天下の奇観・カッパドキア、大好きなイスタンブールのブルーモスク、アヤ・ソフィア、トプカピ宮殿のバクダット・キョスクなどの、畏敬さえ覚えさせる比類ない美しさ。ここへ来ることのできた幸せが胸に溢れた。それにいつもながら、中東の人びとの人なつっこい表情と仕草が暖かい。  たくさん撮った写真のごくごく一部をここにアップしたい。できれば友人たちにも、この魅力的なトルコを訪れを機会あれかしと思う。


南イタリア・シチリア・マルタ旅行(2019年10月)

2019年10月半ば、南イタリア・シチリア・マルタを経めぐる15日間の長旅に参加した。これで最後か? 81歳の老夫婦には、疲労著しく足腰も痛む、あるいは過酷な旅路だったが、ユーラシア旅行社特有の密度高いすばらしい観光の毎日だった。コバルトブルーの海に囲まれたギリシャ・ローマ時代の遺跡、中世以来の教会、その内部の壁画やモザイク、丘の中腹に階段状に犇めく古い民家の数々。どれも美しく魅力いっぱいだったが、とりわけシチリアの聖堂の、かのラヴェンナを凌ぐともいわれるモザイクの精緻な美しさには眼を奪われた。1400枚以上の写真の中から割愛を重ね、50枚ほどを選んで紹介する。それにしてはシチリアの教会内部のモザイク映像が多すぎて、辟易させるかもしれないが、それは宗教美術への私の偏愛のゆえと了解されたい。44番からは、ニコンD80とは別の妻の使う小カメラの写真なので順不同となる。