その15「令和の御代」にも「不安定下層」のやりきれなさは続く

 平成期が労働の世界に残した働く人びとの間の明瞭な格差構造。その下層には、働いて生計を立てる「労働者」といえないほど不安定な「下層」の大きな累積がある。
 この不安定「下層」の最大グループは、「常用」か「臨時」かでいくらか差はあれ、およそ180万円前後の年収、国民年金のみ、未婚者の多い、2018年には2120万人を数える非正規労働者である。若者だけではない。就職氷河期のころ就職を試みた年齢層をふくめて、今では非正規雇用のうち35歳以上が40%、55~64歳だけでも22%を占める。そこに広義の「心の病」から「働けない」ひきこもりの人びとが加わる。これも約55万人とされる若者だけではない。19年春の厚労省調査では、40~64歳のひきこもりは実に61.3万人であった。またNHKは最近、老親介護の体験などを経て働く気力を失った中高年「ミッシングワーカー」が、完全失業者を遙かにうわまわる103万人にのぼることを報道して大きな衝撃を与えた。景気変動的というより構造的な「下層」形成である。 
 これにはむろん、正社員よりは非正規労働者を好んで雇う一方、長時間労働・過重ノルマ・督励や指導の域を超える上司のハラスメントによって若手従業員を「メンタルヘルス不全」に追い込み、そのあげく退職させる、企業の選別的な労務管理の役割が大きい。雇用口があっても働けない人が続出するのはそのためだ。けれども、現代の「下層」の不安定には、そこにもうひとつ、従来、生活危機へのクッションであった家族の変貌がかかわっている。人口高齢化、少子化、未婚率と離婚率の増加などの複合作用による単身世帯の激増、それが複数家族の低所得の合算によってなんとか生計を立てることを難しくしているのだ。片親と十分に稼げない子からなる世帯の苦境も同様に深刻だ。シングルマザーの貧困率の際立った高さや「80-50問題」の果てしない鬱屈が、それを立証している。
 「令和の御代」にも、こうした不安定「下層」のしんどさが改善される方途はみえない。そればかりか、さしあたり生活の安定した正社員層をこの「下層」に振り落とす選別の労務も続いている。1500円の最低賃金、身分・経歴を問わない普遍的な社会保障の確立、うずくまって寄る辺ないひきこもりに向きあう行政の相談活動、個人の受難にどこまでも寄り添う労働組合の営み。だが、考えうるそうした対策の実行に寄与できる「労働者」の連帯はどこかに芽吹いているだろうか。それがわからない鬱屈と焦慮に、私はとらわれる。

              みやび出版『myb』終刊号:2019年10月より転載