昨年度は、紆余曲折のあと『イギリス炭鉱ストライキの群像――新自由主義と闘う労働運動のレジェンド』(旬報社 1870円)を刊行することができました。1980年代、地域コミュニティに支えられた炭坑夫の1年にわたる大ストライキの実像とその敗北の軌跡を掬い、ぎりぎりまで追求された産業民主主義・産業内行動の意義と遭遇した課題を考察する、それは、現代日本では「反時代的」?ともみなされかねないとはいえ、私の問題意識が集約された小著です。
FBやHPを別にすれば、この新著は、8回ほどはあった講演・講義とともに、私の最後の社会的発言となるでしょう。86歳を迎える24年は、この分野ではなんの抱負も野心もない、労働研究者としては引退の画期になります。目標といえば、妻・滋子ともども体力や記憶力が衰え、広義の新技術への適応力が乏しいふたりで、いたわりあいケアしあって、体力と経済力の可能な範囲で文化の享受を楽しみながら、老後を静かに生きてゆくことです。本当に二人三脚です。ちなみに毎年の賀状に引用してきた俳句は、24年は
ひぐれの枯野 もう誰の来るあてもなし(楸邨)
かつては「チンドン屋 枯れ野に出ても足おどる」(楸邨)としたものですから、少し淋しすぎますね。
ただ、心安らかに過ごしてゆけるかは疑わしいです。強国が「人倫の奈落」を顧みないウクライナやガザ、腐臭を漂わせながら戦争のできる国に驀進する自民党政権、公式労働組合のまったき自立の喪失、そしてあまりにも乏しい大衆的抵抗運動の欠如・・・。鬱屈と焦慮に苛まれます。
軍国の冬 狂院は唱に充つ(草田男 1938年)
新しい戦前といわれる今日この頃、私たちもそれに抗う陣営には加わりたいものです。
2024年1月1日 熊沢誠/滋子